金融研究 第5号 (1980年5月発行)

金融政策運営におけるoperating targetについて
−マネーサプライ・コントロールの一側面−

成川 良輔

 本稿は、マネーサプライ(以下Mと略称)のコントロールを巡る諸議論を整理する意味で、米国連邦準備制度(Fed)のMコントロールについての考え方を、いわゆる操作目標(operating target)の問題を中心に検討したものである。
 金融政策の運営に当って中央銀行がMを重視すべきであるという主張はわが国でも広くみられるが、日々の政策運営・市場調節にあたり、いかなる変数を操作目標として選び、どういう方法でMをコントロールするか、という具体的プロセスおよびその背後にある理論的なフレームワークについては、必ずしも十分議論が尽されてきたとは言い難い。これに対し米国では、M重視政策、Mターゲット政策が早くから明確なかたちで導入されたことや、公開市場操作の運営方針決定主体(連邦公開市場委員会=FOMC)と実行主体(ニューヨーク連銀Trading Desk)とが異なるといった制度的な事情もあって、Mコントロールの具体的プロセスが重大な関心事となり、その過程でoperating targetの議論が発展してきた。
 何をoperating targetとすべきかについては、大きく分けて二つの立場がある。一つは、通貨供給面におけるマネタリー・ベースや銀行準備等の量的指標とMとの関係に着目するマネタリスト的な考え方(いわば信用乗数論的アプローチ)である。いま一つは、通貨需要関数における短期市場金利(例えば、フェデラル・ファンド・レート<以下RFFと略称>)とMとの関係に注目する連銀エコノミストを中心とする考え方である。両者間の論争は未だ結着をみていないが、その過程で明らかになってきた点はおおよそ次のとおりである。
1.準備指標と短期市場金利のどちらをoperating targetとすべきかは、基本的にはMとの関係の安定性如何によるが、これまでの米国の実証分析(それぞれをoperating targetとした場合のMの予測誤差を比較)の結果をみる限り、いずれが優っているとも言い難い。
2.したがってその選択に当っては、こうしたMとの関係の安定性以外に、両アプローチがもっている理論的な問題点あるいは実際のMコントロール運営に際しての長所、短所を比較考量して決定しなければならない。
3.このうちとくに本質的なポイントは、政策運営上金融市場の安定性(信用秩序の維持)にどの程度重点を置くかにある。短期市場金利を重視する立場からは、準備指標をoperating targetとすると、しばしば金利の大幅な変動により金融市場が攪乱されるという懸念が表明される。一方、準備指標を重視するマネタリスト側からは、金利の安定を重視する余りFedはMの的確なコントロールに失敗したとの批判がなされる。米国では、79年10月にoperating targetとしてそれまでのRFFから銀行準備をより重視していくこととしたが、これは従来の短期市場金利の安定重視が、現実にMの増大、インフレの加速を招いたことの反省から、最近のようなインフレ高進期にあっては準備指標管理の重要性があらためて見直されたためであろう。
 このように、米国におけるoperating targetを巡る議論は、中央銀行の金融調節がMに波及していくメカニズムについて、いろいろな角度から研究材料を提供しており、今後わが国のコール・レートとMとの定量的関係、金利自由化と金融市場の安定性といったマネー・コントロール上の諸問題を考える際の手がかりとなる点が多いと思われる。


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