金融研究 第8巻第3号 (1989年10月発行)

和同開珎銅銭の非破壊分析結果について

岡田茂弘、田口勇、齋藤努

 わが国最古の鋳貨である和同開珎の形状は必ずしも一定していない。このため、形状面からみた和同開珎の分類(銭種分類)が数多く試みられ、例えば「開」字が隷書体でないものは「古和同銭」、隷書体のものは「新和同銭」と称されるに至っている。しかしながら、銭種分類と鋳造年代や産地との関係については、これまでのところ、必ずしも明らかになっていない。
 本論文は、当貨幣博物館および国立歴史民俗博物館が所蔵する和同開珎銅銭44点(うち古和同銭6点、新和同銭38点)を標本として、非破壊分析という理化学的手法に基づく和同銅銭の成分に関する分析結果を報告するものである。
 この分析結果に基づき和同銅銭の成分をみると、古和同銭の場合、銅含有量は90%を越える一方、錫、鉛は1%以下が多く、最大値でも2%を上回っていない。このことは、古和同銭の成分が純銅に近いとともに、成分にばらつきがないことを示唆している。これに対し、新和同銭は、古和同銭と同様の成分比を有するものも散見されるが、その多くは古和同銭よりも多量の錫、鉛を含有している。この分析結果と古・新和銅銭の現存量(出土分を含む)や出土地域分布の違いをあわせて考えると、古和同は新和同の種銭であったのではないかと推測できる。


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