金融研究 第38巻第4号 (2019年10月発行)

基調講演:低金利環境のもとでのインフレ目標政策とその代替的な政策運営枠組み

カール・E・ウォルシュ

低金利、低インフレ環境という課題によって、柔軟なインフレ目標政策(flexible inflation targeting: IT)の基本的な枠組みの再検証が求められている。物価水準目標政策(price level targeting: PLT)や平均インフレ目標政策(average inflation targeting: AIT)といった代替的な政策運営枠組みに対する関心は、これらの政策レジームがインフレ予想を自動安定化装置として機能させるからであり、この機能は中央銀行が名目金利の実効下限制約に直面している場合に重要な意味を持つ。本稿では、賃金の粘着性、生産性ショックおよび合理的期待からの乖離が存在する場合、ITやAITに比べて、PLTの機能度が大幅に悪化することを示す。また、PLTと整合的な最適政策に完全にコミットできる中央銀行は、ITやAITを採用している場合に比べ、政策遂行のためのバランスシート政策を必要とする可能性がきわめて高くなると考えられる。これらの結果は、政策運営枠組みの設計を巡る議論からITを除外するのは時期尚早であることを示している。

キーワード:最適金融政策、インフレ目標政策、物価水準目標政策、平均インフレ目標政策


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