金融研究 第38巻第3号 (2019年7月発行)

家計の資産選択行動:動学的パネル分析を用いた資産選択メカニズムの検証

伊藤雄一郎、瀧塚寧孝、藤原茂章

本稿では、家計の金融行動に関する個票データを用いて、わが国家計の資産選択行動を規定するメカニズムを、動学的パネル分析などをもとに考察した。分析の結果、家計の資産選択メカニズムは、古典的な資産選択理論のファクター(リスク資産の期待収益率、安全資産利子率、市場ボラティリティ、相対的リスク回避度)や、流動性制約、予備的貯蓄動機といった家計が抱えるさまざまな制約のほか、金融知識など参入コストを左右する要因が影響を及ぼしていることがわかった。また、わが国家計の慎重な投資行動の背景を探るため、日米家計の資産選択の違いを考察したところ、株式収益率の見通しや将来不安の違いで、日米差が相応に説明できるものの、家計の金融知識の違いや、資産選択を巡る日米の制度面の違いなどの構造的要因の影響も大きいことが示唆された。今後、わが国家計の投資環境を整えていくうえでは、株式収益率の改善や将来不安の緩和に加え、家計の資産選択を巡る制度の一層の充実や金融教育の普及を図っていくこともまた重要である。

キーワード:資産選択行動、家計サーベイ、動学的パネル分析、資産選択メカニズム、相対的リスク回避度、金融知識


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