金融研究 第36巻第3号 (2017年7月発行)

福田財政の研究:財政赤字累増メカニズムの形成と大蔵省・日本銀行の政策判断

井手英策

本稿では、戦後日本財政の性格を方向づけた、福田赳夫と深いかかわりのある一連の政策選択、すなわち「福田財政」が、どのような特色を持ち、日本の財政史においてどのように位置づけられるのかを論じる。その際、研究史の空白を埋めるにはとどまらない、相互に関連する以下の2つの課題を起点として、政府債務の累増メカニズムの一端を解き明かしていく。1つ目は、「30年の時を隔てて復活した高橋是清の財政哲学」という視点とかかわっている。福田は高橋の財政思想に心酔し、高橋財政期を、景気回復と財政健全化を両立させた理想の時代ととらえていた。そこで、高橋財政の政策体系が石油危機の前後期にふたたび採用されたことの歴史的な帰結を問う。2つ目の課題は、福田財政の側から光を当て、「高橋是清が存命だったら日本の財政はどうなったのか」というヒストリカル・イフを逆照射することである。福田は、異なる歴史状況のもと、高橋が存命であれば実践したであろう方法によって、国債発行と財政の健全化を両立させようとした。だが、政策判断の動学的な非整合性が起き、特定の政治的リーダーシップに依存した、属人的な財政健全化が限界を持つものであることが明らかになった。

キーワード:福田赳夫、高橋是清、健全財政、財政硬直化打開キャンペーン、2兆円減税、ハーヴェイロードの前提


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