金融研究 第36巻第1号 (2017年1月発行)

ワークショップ「多国籍企業の財務報告と会計基準の国際的調和」の模様

日本銀行金融研究所では、企業会計に関する研究の一環として、2016年3月22日、「多国籍企業の財務報告と会計基準の国際的調和」をテーマにワークショップ(座長:徳賀芳弘・京都大学教授)を開催した。近年、金融経済のグローバル化が進展する中にあって、会計基準の国際的な調和が進んでいる。会計基準の国際的調和の目的の1つは、国を跨いで企業グループを形成する多国籍企業等における財務諸表の比較可能性の向上を通じて、投資家の意思決定に有用な情報を提供することである。一方、会計制度はそれ自体が独立して存在するわけではなく、各国における開示規制、税制、金融システム、監査制度等の諸制度と一体となって1つの社会的インフラを形成している。したがって、会計基準だけを国際的に調和化することの効果には一定の限界がある可能性があるほか、他の諸制度も含めて調和化ないし標準化することが望ましいかどうかという議論も想定される。さらに、多国籍企業に適用される会計基準は、多国籍企業の行動インセンティブ、例えば、近年国際的にも注目されているような租税回避等に関するインセンティブにも影響を与え得るという点で重要な論点を孕んでいると考えられる。本ワークショップは、こうした問題意識を前提として、会計基準の国際的な調和化ないし標準化に対してどのように対応すべきかという点に関して、一定の示唆を得ることを目的として開催された。
本稿では、本ワークショップにおける導入報告、コメント、リジョインダー、討論および座長総括コメントの概要を紹介する。

キーワード:多国籍企業、IFRS、比較可能性、原則主義、コーポレート・ガバナンス


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