幕末開港後のインフレ要因として、万延改鋳後の貨幣数量の増加が指摘されてきた。本稿では、この時期の貨幣数量に関する基礎データを得るため、新史料を用いて1858~67年にかけての貨幣数量を推計するとともに、幕府による貨幣供給の実態を分析した。
推計結果から、貨幣在高の増加パターンは、(1)万延改鋳直後(1860~61年)、(2)将軍上洛前後(1862~65年)、(3)大政奉還前後(1866~67年)、毎に異なり、時系列データが整備されている匁建てでの物価の推移と類似することが観察された。
地域別にみると、貨幣の払出しは、上方や東海道に対して重点的になされ、全国に供給が行きわたっていたわけではなかった。
また、銭貨については、四文銭と百文銭の増加が目立った。この背景としては、物価上昇に伴う銭貨需要の増加に対応するため、幕府が一文銭に代えて、四文銭や百文銭の供給を増加させた側面があったとみられる。この間、銅一文銭は素材として海外に流出したこと等により、その在高は激減した。
キーワード:幕末、インフレーション、貨幣数量、幕府財政、万延二分金、寛永通宝、天保通宝
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