金融研究 第34巻第3号 (2015年7月発行)

金融規制における課徴金制度の抑止効果と法的課題

杉村和俊

わが国の金融規制における課徴金制度は、法令違反行為を抑止し、規制の実効性を確保することを目的としており、課徴金額の基準は違反行為による経済的利得相当額とされているが、違反の類型によっては抑止に必要な金額を満たしていない可能性がある。この基準設定の背景には、課徴金を刑罰と併科すると憲法上禁止されている二重処罰に該当し得るとの懸念から、課徴金制度が利得の剥奪という機能に限定された形で導入されたという経緯がある。他方、罰金などの刑事的な制裁金は、とりわけ自由刑を科し得ない法人に対する唯一の刑罰としてみると、抑止効果が不十分である可能性がある。その背景には、法人の犯罪能力の有無が争われる中で、両罰規定という特殊な形式によって限定的に法人処罰が行われてきたため、ある自然人行為者の犯罪を立証できない限り法人を処罰できない等の構造的な問題がある。
本稿では、こうした背景を踏まえつつ、課徴金額の基準を経済的利得相当額とすべき憲法上の理由は存在しないと解されることから、わが国の課徴金制度が違反行為の抑止という目的を今後も掲げるならば、違反者に対して抑止に必要な金額の課徴金を課するべきであることを示す。また、違反者が法人(株式会社)である場合には、課徴金が法人に対して課され、その最終的な負担の一部が株主代表訴訟等を通じて役員等に転嫁されることによって、実効的な抑止が生じ得ることと、その一部がD&O保険(会社役員賠償責任保険)によってカバーされることで、過剰な抑止が緩和され得ることを示す。

キーワード:課徴金、抑止、制裁、法人処罰、株主代表訴訟、D&O保険(会社役員賠償責任保険)


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