金融研究 第34巻第3号 (2015年7月発行)

振替証券・電子記録債権の導入を踏まえた法解釈論の再検討

電子的記録に基づく権利を巡る法律問題研究会

本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「電子的記録に基づく権利を巡る法律問題研究会」(メンバー〈50 音順、敬称略〉:阿部裕介、井上聡、神作裕之、神田秀樹〈座長〉、小出篤、道垣内弘人、仁科秀隆、前田庸、森田宏樹、山本和彦、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
近年、有価証券のペーパーレス化が進み、電子的記録に基づいて権利関係を規律するための新たな仕組みが整備された。このようなペーパーレス化は、有体物である紙の証券に基づいて権利関係を規律することに伴うコストやリスクを削減し、電子化によって権利の流通を円滑にすることで、経済社会における資金調達や資金決済を支えるものである。もっとも、法的安定性の確保という観点からみると、従来、紙の証券の存在を前提として構築されてきた法解釈論のなかには、電子化された権利である振替証券や電子記録債権について当然には適合しないものも、少なからず見受けられる。
電子的記録に基づく権利について定める新たな法制度が導入され、権利関係の規律において紙の証券という実体が失われたことに伴い、法解釈はどのような変容を迫られているか。また、紙の証券の存在を前提として認められてきた機能がペーパーレス化によって失われると解される場合には、電子化された仕組みのもとでも同様の機能を確保すべきであると考えられるか。仮に同様の機能を確保すべきであれば、それをどのような仕組みによって実現するか。これらの点について、具体的な取引の場面に即した形で、制度趣旨に立ち返った理論的考察を行うことは有益であろう。
以上のような問題意識を踏まえ、本報告書では、権利の成否や所在について争いとなりうる具体的な場面を取り上げ、主として紙の証券が電子的記録に置き換わったことに伴う変化に着目しながら、法解釈の可能性と限界について検討を行っている。


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