金融研究 第32巻第4号 (2013年10月発行)

顧客保護の観点からの預かり資産を巡る法制度のあり方

金融取引における預かり資産を巡る法律問題研究会

 本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「金融取引における預かり資産を巡る法律問題研究会」(メンバー〈50音順、敬称略〉:井上 聡、沖野眞已、加毛 明、神作裕之、神田秀樹〈座長〉、佐藤正謙、道垣内弘人、前田 庸、松下淳一、森田宏樹、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
 先般の金融危機時には、金融機関が倒産した場合に、金融取引における預かり資産を保全しそれを迅速に顧客に返還する必要性が認識された。また、金融機関による預かり資産の再利用に伴うリスクが顧客に十分に認識されていないことが問題となった。こうした問題を受けて、規制の見直し等を含めた対応のあり方が国際的に議論されている。
 わが国においても、金融取引の内容や対象資産の性質から、預かり資産が金融機関の自己資産と十分に区分されない場合があるほか、金融機関の義務違反により預かり資産として保有する資産が不足する場合がある。こうした場合には、金融機関倒産時に顧客が預けた資産の返還を受けられない事態が生じ得る。また、一部の担保型取引では、当事者の合意に基づき金融機関に預かり資産の利用・処分を認めることがあるが、こうした利用・処分を認めることに伴うリスクが顧客に十分に認識されていなければ混乱が生じ得る。さらに、こうした担保型取引については、金融取引の効率性確保の観点から、当事者のニーズに応じた多様な取引形態の選択を可能とするための法制の整備等も重要となる。
 以上のような問題意識を踏まえ、本報告書では、預かり資産を巡る金融取引として、振込、証券売買の取次、サービサーの債権回収といった権利移転仲介型取引や担保型取引を取り上げ、わが国現行法上、預かる者と預けた者がいかなる権利義務を有するかにつき、金融機関倒産時における預かり資産の処遇を中心に整理を行っている。そのうえで、諸外国の法制とも比較しつつ、わが国の望ましい法的対応のあり方につき検討を行っている。


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