本稿は、過去15年で劇的に進展した企業の貿易に関する研究を紹介する。1990年代以降、企業レベルのデータが利用可能になり、どのような企業が輸出を行い、貿易政策の変化に伴いどのような企業が生産、輸出を増やすのかという国際貿易に関するマイクロレベルの実証的事実が蓄積されてきた。こうした事実を整理する理論的枠組としてMelitz [2003]により異質的企業の貿易モデルが提示され、彼のモデルを拡張しその含意をマイクロデータを用いて検証する、あるいはモデルの集計量に関する含意を集計データを用いて検証することで国際貿易に関する研究が進んできた。企業間の異質性に着目した一連の研究は、従来の代表的主体を仮定した研究にはなかった同一産業内での企業の選別という視点を提供し、実証的にも企業の選別が集計量としての生産性向上につながることが示されてきた。本稿では基本となる異質的企業の貿易モデルをその後の拡張研究の成果とも関連付けながら紹介し、理論研究で示された含意が実証的にどの程度確かめられたのかを概観する。
キーワード:国際貿易、企業、異質的経済主体
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