金融研究 第31巻第4号 (2012年10月発行)

経済資本を活用した金融機関の経営効率向上策

内田善彦

 本稿では、金融機関における経済資本の効果的な活用方法について理論面・実務面双方から検討を行う。また、具体例として与信ポートフォリオ運営を取り上げ、経済資本管理を活用した収益性向上策を考察する。
 リスクと期待リターンを踏まえて投資戦略を判断する既存の枠組みは、幾つかの仮定を前提として構築されている。しかし、それらの仮定は、現実には満たされていない場合が多い。この問題は、2007~08年の金融危機において、リスク計測上のモデル・リスクともいえる形で顕在化した。本稿では、理論面からの分析に基づき、リスクと期待リターンの関係が定量的に議論可能となるために満たされるべき条件を提示し、その条件を満たすタイプのリスクを計量比較可能なリスクと呼ぶ。また、実務面については、金融機関は、保有するリスクを計量比較可能度合いに応じて分解・整理し、それぞれを比較優位のある部署で分別管理することによって、経営資源のさらなる効率性を追求できる可能性があることについて、関連する既存研究を踏まえたうえで論じる。さらに、そうした方法の一例として銀行の与信ポートフォリオ運営を取り上げ、市場リスクのALM管理の考え方を信用リスクの管理にも適用すれば経営効率の向上につながる可能性があることを論じる。

キーワード:経済資本、全社的リスク管理、リスク指標、リスク調整後収益指標、信用リスクALM、与信ポートフォリオ


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2012 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム