本稿では、人口減少がわが国経済にもたらすインパクトをうらなうため、人口問題を扱った経済成長理論をサーベイし、資本蓄積や技術進歩率への影響を中心に、その含意を紹介する。標準的な経済成長理論からは、人口成長率の低下は、一人当たりが利用できる資本を増やすことを通じて、一人当たり実質GDPを押し上げることが導かれる。これを「負の資本希釈化効果」と呼び、資本が労働対比で豊富な資源になることから生じる。その結果、資本の対価である自然利子率は低下する。他方で、人口成長率の低下は、技術進歩率を低めることを通じて、一人当たり実質GDP成長率を下押しするという考え方も存在する。これは、人口成長率の低下が、研究開発に投入できる労働力の成長率低下を通じて、イノベーションの停滞を引き起こすとの考え方に由来する。ただし、海外からの技術伝播を考えれば、わが国で予見される人口減少が、技術進歩の制約になるとは限らないという考え方もある。なお、こうした議論の含意を考えるにあたり、生産要素市場におけるスムースな調整等本稿で紹介する理論の前提条件が、わが国経済でどの程度整っているかは、議論の余地がある。今後は、わが国経済の実状をより精緻に反映した研究の蓄積が待たれるところである。
キーワード:人口成長、経済成長理論、一人当たり実質GDP成長率、資本蓄積、技術進歩率
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