金融研究 第31巻第1号 (2012年1月発行)

株主利益の観点からの法規整の枠組みの今日的意義

コーポレート・ガバナンスに関する法律問題研究会

 本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「コーポレート・ガバナンスに関する法律問題研究会」(メンバー〈50音順、敬称略〉:石綿学、井上聡、大杉謙一、加藤貴仁、神作裕之、神田秀樹、後藤元、田中亘、前田庸〈座長〉、森田果、柳川範之、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
 わが国においては、上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けた法制等の整備が進められてきている。その際の視点としては、企業の健全性の観点に加え、企業の収益向上のための意思決定の仕組みのあり方という観点も重視されている。
 さらに、近年では、コーポレート・ガバナンスを巡る新たな展開がみられる。すなわち、今般の国際金融危機を受け、欧米を中心に、取締役等の報酬制度や経営監視体制等のあり方にも問題があったことが広く意識されている。また、従来、株式持合いについて問題とされてきた企業価値を損なう議決権行使の可能性が、近年出現した持合解消信託のスキームやエンプティ・ボーティングにおいてより尖鋭化するおそれが生じている。これらを通じて、株主利益の観点からの法規整の枠組みや「株主利益」そのものの意義が問われているように思われる。さらに、株主利益の観点からの会社法上の規整と労働法や金融規制といったその他の法規整との関係のあり方も問われているように思われる。
 わが国の経済の持続的な発展の観点からは、企業の収益向上をサポートするための制度基盤のあり方を問い続けていく必要がある。本報告書では、こうした観点から、上記のような新たな展開を踏まえ、株主利益の観点からのコーポレート・ガバナンスに関する会社法上の規整の機能やその他の法規整との関係につき検討を行っている。


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