金融研究 第30巻第3号 (2011年8月発行)

マネーと成長期待:物価の変動メカニズムを巡って

木村 武、嶋谷 毅、桜 健一、西田 寛彬

 マネーと物価の中長期的な変動について、OECD諸国を対象に国際比較を行うと、両者の間には明確な正の相関が確認される。日本は、マネーの伸び率と物価上昇率の双方が国際的にみて低いところに位置しており、これを貨幣数量説に基づいて解釈すれば、マネーの伸び鈍化が日本の物価上昇を抑制してきたという見方(money view)につながる。一方、主要先進国別に、マネーと物価の変動について時系列上の関係をみると、1990年代半ば以降、日本を含む先進各国において両者の相関は低下している。さらに、この時期において、日本では潜在成長率と中長期的な予想インフレ率の間に強い正の相関が観察され、これらの事実はmoney viewとは整合的ではない。日本の潜在成長率の大幅かつ長期にわたる低下は、国際的にも目立っており、それだけ日本では成長期待が明確に低下し、このことが物価上昇を抑制してきた可能性も考えられる。すなわち、(1)成長期待が低下すると、民間部門にとって将来にわたる財政負担や債務返済負担が高まる、(2)民間部門はこの将来負担に備え、貯蓄を増やし支出を抑制するようになる、(3)その結果、需要が長期にわたり低迷し、財市場の需給緩和から物価の低下圧力が強まったという見方(expected burden view)もできよう。本稿では、マネーや成長期待の変化が物価変動に影響を与えるメカニズムの妥当性について考察するとともに、日米欧の物価動向の現状について整理する。

キーワード:Money view(マネービュー)、Expected burden view(将来負担ビュー)


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