金融研究 第30巻第3号 (2011年8月発行)

中小企業向け貸出をめぐる実証分析:現状と展望

小野 有人

 本稿では、中小企業向け貸出に関する内外の実証研究を貸出形態に即して概観し、今後の研究課題を提示する。第1に、リレーションシップ貸出に関する実証研究の多くは、借入企業の資金アベイラビリティの改善とホールドアップ問題による金利負担の増大、異時点間での金利平準化を見出している。日本の中小企業の特徴は、複数の銀行から借り入れしつつ、特定の銀行とのメインバンク関係を長期安定的に維持していることだが、そうした関係が形成される要因についてはなお、コンセンサスが得られていない。また日本では、規模の小さい企業ほど事業の収益性が低い傾向があり、リレーションシップ貸出が企業パフォーマンスの改善に結びついているかも引き続き重要な検討課題である。第2に、クレジット・スコアリング貸出等の新しいトランザクション貸出に関する実証研究は緒に就いたばかりであり、金融機関の組織形態や企業属性による適性、リレーションシップ貸出と比較した貸出条件の違いなど、コンセンサスが得られていない論点が多い。第3に、海外の研究とは異なり、日本の信用保証制度に関する実証研究は、信用保証貸出の一部が既存のプロパー貸出の返済に利用され、また、制度利用後の企業パフォーマンスが改善していないことを示唆している。その背景には、日本の信用保証制度における政府部門のリスク負担割合が原則100%であったことが考えられる。今後研究が一段と進展し、責任共有制度や可変保証料率制などの制度改革に寄与していくことが期待される。

キーワード:中小企業、リレーションシップ貸出、トランザクション貸出、信用保証制度


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