金融研究 第29巻第3号 (2010年7月発行)

取締役の債権者に対する義務と責任をめぐるアメリカ法の展開

後藤 元

 株主有限責任制度のもとでは、株主=取締役は、債権者の犠牲においてハイリスク・ハイリターンの事業を選択するインセンティブや会社の倒産処理を迅速に開始しないインセンティブを持つことが指摘されている。近時は、この問題への対処として、会社の経営状態が悪化した場合(典型的には債務超過に陥った場合)には、取締役は株主ではなく(もしくは株主に加えて)債権者の利益を図る義務を負うべきであり、取締役の対第三者責任(会社法429条)をそのように解釈すべきであるとの主張が少なくない。もっとも、これらの主張は、しばしばデラウェア州の判例法をその根拠の1つとして援用しているが、デラウェア州の判例法とそれをめぐるアメリカの学説の議論がこれまで十分に紹介されてきたとは言いがたい。
 デラウェア州の判例においては「倒産状態にある会社の取締役は債権者に対しても信認義務を負う」との判示が繰り返されているが、その事案を分析すると、この判示の機能は、債権者の利害を考慮した取締役の行為に対する株主による責任追及を否定することと、会社財産が取締役・支配株主・グループ会社等に流出した場合の救済を債権者に与えることにあり、取締役によるリスクの高い事業の選択を抑止するものとしては作用していなかったということができる。本稿は、このような判例の分析と、近時のアメリカの学説の議論を検討することによって、わが国の議論への示唆を得ようとするものである。

キーワード:取締役の責任、取締役の義務、債権者、債務超過、倒産、経営判断の原則、デラウェア州


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