金融研究 第29巻第3号 (2010年7月発行)

信用ポートフォリオのリスク計量:金利変化見通しと個別企業価値変動を考慮したトップダウン・アプローチ

金子拓也、中川秀敏

 本稿では、信用ポートフォリオのリスク計量を行ううえで、景気の先行き見通しに関する情報を利用し、評価の精度を高める手法を提案する。具体的には、市場で観察可能な金利の期間構造に反映されている経済情報に応じて、企業格付けの推移確率が影響を受けるモデルを取り入れる。
 その際には、CDO(collateralized debt obligation)の評価手法として発展しているトップダウン・アプローチを応用することで、経済情勢の変化がポートフォリオ全体の中で発生する格付け変更の頻度にどう影響するかを評価する。また、ポートフォリオ内の格付け変更を個別企業に割り当てる際には、従来のトップダウン・アプローチを改良し、マートン・モデルに基づき各企業の信用状態を考慮する。実証面では、仮想的な信用ポートフォリオに対し本リスク計量モデルを適用して、経済見通しを考慮する場合としない場合のリスク量を比較し、特にクレジット・イベントが発生する局面では両者の乖離が顕著に増大することを示す。さらに、応用事例として、本リスク計量モデルから得られる個別企業のデフォルト確率の期間構造を用いて、個別貸出の適正金利をプライシングする手法も示す。

キーワード:信用リスク、リスク管理、トップダウン・アプローチ、モンテカルロ・シミュレーション


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2010 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム