金融研究 第29巻第1号 (2010年1月発行)

オークションの理論と実際:金融市場への応用

上田晃三

 本稿では、オークションの基本理論を紹介したうえで、その応用例として、金融市場におけるオークションについて概観する。一定の前提のもとでは、オークションの方式は売り手の期待収入に影響を与えないという収入同値定理が成立する。しかしながら、定理成立に必要な前提が満たされない場合には、オークション方式によって売り手の期待収入は変化する。国債発行の望ましいオークション方式に関して、理論・実証双方とも見解の一致はないが、単一価格方式より複数価格方式の方が望ましいという主張は、過去の実績により必ずしも裏付けられるものではない。国債発行時のオークションを設計する際には、市場構造・制度等に留意し、勝者の呪い、共謀、ショート・スクイーズ等の中でどの問題が生じやすい状況にあるかを精査するとともに、社会が目指すべき目的についても考慮していく必要がある。また、中央銀行の公開市場操作でのオークション方式についても、その目的として、収入最大化、効率性、政策スタンスの効果的なシグナリング、安定性の確保のうちどれを重視するのかについて考慮する必要がある。

キーワード:単一価格(ダッチ)方式、複数価格(コンベンショナル)方式、競争入札、国債入札発行、公開市場操作、新規株式公開、不良資産買取り


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