与信ポートフォリオのバリュー・アット・リスク(VaR)算出に解析的な近似手法を用いると、計測時間を大幅に短縮することができる。加えて、個別債務者のリスク寄与度やVaRのパラメータに対する感応度が容易に求められるようになり、与信集中リスクの計測やデフォルト率の変化に伴う信用リスクの変動計測が簡便に行えるようになる。こうした活用法の前提として、VaRの計測精度が保証されている必要がある。本研究では、条件付鞍点法によるVaRの近似表現を導出し、その近似精度の検証を行った。その結果、さまざまなポートフォリオに対して良好な近似精度が得られることが確認された。また、与信集中度が極めて高く、損失分布が歪な形状を示す場合でも、ポートフォリオを大口上位とその他に分割し、前者にはツリー法、後者には条件付鞍点法という組合せで対応した「分割型条件付鞍点法」を用いるとVaRや損失分布を小さい誤差で表現できることが確認された。
キーワード:ファクター型信用リスクモデル、VaR、条件付鞍点法、無条件鞍点法、分割型条件付鞍点法
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