本稿は、日本銀行金融研究所が平成19年3月6日に、「リテール・バンキングのセキュリティ」をテーマとして開催した第9回情報セキュリティ・シンポジウムの模様を紹介するものである。
偽造キャッシュカード犯罪の被害は、主として預金引出限度額の引下げと利用者への注意喚起の効果によって、ようやく沈静化に向かいつつある。しかし、カード犯罪の未然防止策として導入された生体認証やICカードといった新しい情報セキュリティ技術は、現時点ではあまり普及しておらず、その特性が十分に活かされているとはいいがたい状況にある。偽造カード犯罪の根が絶たれたとはいえない現状において、金融業界は、むしろ抜本的なセキュリティ対策を講じるための一時的な猶予が与えられたと受け止めるべきであろう。
今回のシンポジウムは、こうした問題意識から、金融業界がリテール・バンキングのセキュリティを抜本的に改善するためのグランドデザインを描いていくうえで必要とされる検討材料を提示することを目的に開催された。キーノート・スピーチでの問題提起に続き、偽造カード犯罪の未然防止策の「旗印」に掲げられている生体認証とICカードについて、おのおのの技術の安全性を巡る最新の研究結果を報告するとともに、金融業界が今後これらの技術を有効に活用していくための留意点や検討課題についても整理した。
フロアには、金融業務における情報セキュリティ対策を担当している金融機関関係者のほか、暗号学者、情報セキュリティ技術に関係の深い官庁関係者、電機メーカーの研究開発部門・標準化部門の実務家や技術者等、約100名の参加を得た。
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