金融研究 第26巻第1号 (2007年2月発行)

非上場企業に「追い貸し」は存在したか?

福田慎一、粕谷宗久、中島上智

 本稿では、1990年代から2000年初頭にかけての日本経済において中堅企業に対して「追い貸し」が観察されたかどうかを、非上場企業の財務データやその取引先銀行の情報を使って考察した。中堅・中小企業向け金融では、「貸し渋り」や「貸し剥し」と呼ばれるクレジット・クランチが幅広く観察されてきた。しかし、その一方で、中堅・中小企業向けであっても、経営再建の見込みが乏しい先に貸出を継続または拡大する「追い貸し」が行われていた可能性は先見的には否定できない。貸出関数を推計した場合、借り手企業のバランスシートが各非上場企業の貸出量に対して非線形な影響を及ぼすことが観察された。しかし、上場企業とは異なり、過剰債務に陥った非上場企業に対する「追い貸し」は、ごく一部の企業に限られた。ただし、1990年代後半以降でも、特に金融危機期に、メイン・バンクの不良債権比率の増加は、貸出を有意に増加させていた。これらの結果は、非上場企業では、借り手のバランスシート悪化による「追い貸し」は限定的であった反面、金融危機の結果、貸し手の不良債権比率が増加した場合に、いくつかの非上場企業に対して「追い貸し」が行われた可能性を示唆するものである。

キーワード:設備投資、非上場企業、不良債権、クレジット・クランチ、追い貸し


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