金融研究 第25巻法律特集号 (2006年11月発行)

ディスクロージャーの実効性確保
—民事責任と課徴金—

黒沼 悦郎

 本稿は、証券取引法上の民事責任および課徴金について、主としてディスクロージャーの実効性を確保するという機能に着目して、検討を加えることを目的とする。
 本稿は3つのパートから成る。Iでは、証券取引法上の民事責任について刑事責任との比較を試みたのち、現行の民事責任規定の不備を指摘する。続いて、一般私法規定と比較した民事責任規定の特徴を明らかにし、それぞれの特徴の理論的・政策的当否を検討する。平成16(2004)年の証券取引法改正により、継続開示書類に関する発行者の無過失責任、および当該責任に関する損害額の推定規定が設けられた。本稿では、改正の趣旨、改正法の解釈、改正の影響について分析を加え、いくつかの問題点を指摘している。
 エンロン事件後の米国において、会計不正を抑止するために、引受証券会社、会計監査人等のいわゆるゲートキーパーに厳格責任(無過失責任)を負わせるべきだとの議論が学説においてなされている。IIでは、ゲートキーパーに法的責任を課すことの意味、無過失責任のメリット・デメリットを明らかにしたのち、これに関する学説の議論を紹介する。そこでは、ゲートキーパーに無過失責任を課すことの意味、最低責任額を法定する必要性および方法、無過失責任化がゲートキーパー市場に及ぼす影響について、興味深い議論がなされていることが明らかにされる。
 IIIでは、平成16年の証券取引法改正により導入された課徴金制度について、その導入の経緯、課徴金の対象と金額の算定方法を説明し、課徴金の額が違反者の経済的利得相当額に限定されているのでは十分な抑止効果が発揮できないことを論じる。続いて、本稿の検討対象である発行開示違反に対する課徴金、および平成17(2005)年改正で導入された継続開示違反に対する課徴金について、それぞれ解釈上・立法上の問題点を検討する。さらに、課徴金と没収・追徴ないし罰金との併科の是非について、二重処罰の禁止との関係、課徴金制度の趣旨から整理を試みる。最後に、課徴金制度の将来展望として、運用上の課題、立法上の課題を明らかにし、クラス・アクション制度が存在せず零細な投資者の保護が十分に図られていないわが国において、課徴金制度に損害填補機能を持たせるよう改革を行うことの重要性を指摘する。

キーワード:ディスクロージャー、民事責任、ゲートキーパー、課徴金


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2006 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム