金融研究 第25巻法律特集号 (2006年11月発行)

有価証券のペーパーレス化の基礎理論

森田宏樹

 有価証券のペーパーレス化を実現した社債・株式等振替法においては、有価証券上の権利の発生、移転、消滅等について、振替口座簿上の口座振替によりその法的効力が生ずるという基本的な仕組みが採られているが、振替口座簿の記録には、法的にみて、いかなる意義ないし機能が認められるのか。本稿は、いわゆる直接保有方式を採用する点で、日本法と制度の基本構造において共通するフランス法との比較研究に基づいて、「口座の記録」を基礎とした権利移転の法的仕組みについて、理論的な観点から分析・検討を行うことによって、有価証券のペーパーレス化を実現したわが国の立法の基礎にある理論の析出を試みたものである。
 有価証券法理は、伝統的には紙媒体の券面の存在を前提とした有価証券に即して形成されたものであるが、それに特有な法理を超えて、ペーパーレス化された有価証券を包摂するような有価証券の一般理論を構想することが可能である。
 本稿の検討によれば、有価証券の権利移転のメカニズムの基礎にあるのは、有価証券上の権利に対する「占有」であり、有価証券のペーパーレス化というのは、紙媒体の券面に対する物理的支配から、「口座の記録」を基礎とした有価証券上の権利に対する事実上の支配権限へと「占有」概念が機能的に拡張したことを通じて実現されたものと捉えることができる。

キーワード:有価証券法理、ペーパーレス化、証券決済制度、社債・株式等振替法、電子債権(電子登録債権)、フランス法


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