金融研究 第25巻第4号 (2006年12月発行)

金融市場の価格機能と金融政策:ゼロ金利下における日本の経験

馬場 直彦

 本稿では、日本銀行によるゼロ金利・量的緩和政策のもとでの、わが国金融市場の価格機能についての評価を試みている。はじめにさまざまな金融市場での価格動向を観察した後、日本銀行の金融政策がわが国国債(JGB)市場での期待形成と邦銀のリスク・プレミアムに与えた影響を詳細に分析している。主たる結果は以下のとおりである。第1に、負の潜在金利の存在を許容するブラック=ゴロボイ=リネツキィ(BGL)モデルを用いたJGBイールド・カーブの分析結果によると、(1)1990年代後半以来負の値をとっていた潜在金利は、2003年に上昇に転じ、その後上昇トレンドにあることに加え、(2)リスク中立下における、負の潜在金利が再びゼロに達するまでの時間(初到達時間)は、2006年2月末現在で約3ヵ月間と推計される。初到達時間は、近似的にJGB市場参加者が期待するゼロ金利政策の終了時期に対応すると考えられる。第2に、量的緩和政策のもとでは、譲渡性預金市場のような短期金融市場において、邦銀に対するリスク・プレミアムがほぼ消滅した一方、クレジット・デフォルト・スワップ市場のような長期クレジット市場や株式市場では残存し続けた。この結果は、量的緩和政策のもとでの日本銀行による潤沢な流動性供給が、流動性不足に起因する邦銀の短期的なデフォルトの発生可能性を抑える効果を有していたとの金融市場参加者の評価を反映したものと捉えることができるだろう。

キーワード:日本銀行、金利の期間構造、名目金利の非負制約、ゼロ金利政策、量的緩和政策、銀行のリスク・プレミアム


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