金融研究 第24巻第1号 (2005年3月発行)

石山寺増改築工事の財政と銭貨

栄原 永遠男

 古代における銭貨流通を、政策意図ではなく、その実態において明らかにすることは、史料の関係でかなり困難である。本稿は、そうした中で、古代の文献史料を用いてその具体的状況を浮かび上がらせる試みである。古代の文献史料の中でそのようなことが可能なのは、正倉院文書しかない。正倉院文書は、多様な文書群から成り立っているが、今回取り上げたのは、そのうち造石山寺所文書の一群である。
 造石山寺所文書は、天平宝字5~6(761~762)年に行われた石山寺の増改築工事に関するさまざまな帳簿や文書からなるが、そのうち「造石山院所解(秋季告朔)」「造寺料銭用帳」「米売価銭用帳」「雑物収納帳」や山作所関係帳簿には、銭貨の供給や、銭貨を用いた売買が行われていたことが記されている。
 その状況をさらに分析すると、造石山寺所があった勢多(瀬田)付近には国府市があり、勢多荘も存在し、この3者を中心に、かなり銭貨が流通していた状況を知ることができる。また、この造営工事によって引き起こされた物資や人間の移動により、勢多地域以外の近江国内にも銭貨が普及していったことを推定することができる。

キーワード:銭貨流通、正倉院文書、石山寺、造石山寺所、山作所、勢多(瀬田)、国府市


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