金融研究 第23巻法律特集号 (2004年8月発行)

「中央銀行と通貨発行を巡る法制度についての研究会」報告書 

 本稿は、「中央銀行と通貨発行を巡る法制度についての研究会」(メンバー<五十音順、敬称略>:安念潤司、岩原紳作、神田秀樹、北村行伸、佐伯仁志、櫻井敬子、塩野宏<座長>、道垣内弘人、福田慎一、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
 現在、わが国をはじめ多くの国々において、国家または中央銀行が発行する貨幣または銀行券を法定の「通貨」とし、こうした「通貨」の発行は国家および中央銀行が独占的に行うこととする、という制度が採られている。
 他方、歴史的な経緯や近年における特徴的な動きとして、例えば、国家や中央銀行が「通貨」を発行するよりもはるか以前から通貨としての機能を有するものは存在してきたこと、国家や中央銀行が発行する「通貨」以外のものも支払手段として広範に使われてきていること、国家の枠組みと「通貨」の発行・流通の範囲が一致しない事例がみられること、いわゆる地域通貨を発行し流通させようとする動きが目立ってきていること、を指摘できる。
 本報告書では、なぜ国家や中央銀行が独占的な「通貨」発行を行うようになったのか、国家や中央銀行の発行する「通貨」の特徴や存在意義はどのような点にあるのか、国家の枠組みを越えて「通貨」の発行・利用が行われる場合に問題が生じることはないのか、いわゆる地域通貨は国家や中央銀行の発行する「通貨」とどのような関係に立つものなのか、といった諸問題について、法的観点を中心として経済学的あるいは歴史的観点も交えながら検討を行っている。
 まず、第2章において、わが国および海外における現行の通貨発行制度を概観し、第3章において、国家または中央銀行が通貨発行を独占するに至った歴史的経緯および民間主体による競争的な銀行券発行の事例を概観したうえで、国家または中央銀行による独占的通貨発行の意義について検討している。第4章では、国家の「通貨高権」という考え方とこれとの関係でみた中央銀行による銀行券発行の位置づけについて検討を行い、第5章では、「通貨」の発行に伴うシニョレッジ(通貨発行益)を巡る議論を整理している。また、第6章では、「法貨」とその「強制通用力」という概念や、これとの比較でみた法貨以外の支払手段の特徴等について分析している。続いて、第7章では、ドル化および通貨統合について、第8章ではいわゆる地域通貨について検討を行っている。そして、最後に、中央銀行が引き続き通貨発行機能を担っていくうえで留意していくべきと思われる事柄を整理し、結びとしている。

(本報告書は、当初、2004年3月に公表された。その後、『金融研究』への掲載〈2004年8月〉に当たり、若干の編集上の変更が加えられている。)


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