世界の発展途上国のうち、国際金融市場にある程度統合されることを目指してきたエマージング市場諸国は、1人当たりの所得や長期的な経済成長率が高く、また、産出量や消費のボラティリティが小さいという特徴を有している。しかしながら、こうした特徴は、金融市場統合の帰結というよりは、むしろその要因である可能性が高い。エマージング市場諸国では、高所得国に比べ金融市場統合の恩恵が小さく、特に、近年の金融危機により、その恩恵は限定的となった。エマージング市場諸国で金融市場統合の恩恵が限定される理由の1つは、開放経済のトリレンマを解決することが難しいことである。エマージング市場諸国の構造的・制度的な特徴を前提とすると、こうした諸国の多くは、固定相場制と完全な変動相場制のいずれのもとでも安定した経済運営は難しいであろう。市場のストレスが高まった時期に為替レートのボラティリティが一時的に拡大したものの、ごく最近では、いくつかのエマージング市場諸国で為替レートを安定化させる試みがみられている。
キーワード:発展途上国、エマージング市場、収斂(convergence)、マクロ経済のボラティリティ、為替制度、制度基盤、ドル化、原罪
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