金融研究 第23巻第1号  (2004年3月発行)

株式評価における保守的な会計測定の経済的機能について

薄井 彰

 本稿の目的は、株主資本の市場価値(時価)と会計上の評価(簿価)の乖離の要因を実証的に分析することを通じて、保守的な会計測定の経済的な機能を明らかにすることである。具体的には、1968-2001年の東京証券取引所上場企業のパネル・データを用い、Beaver and Ryan[2000]のモデルに従いながら、会計の保守性を表すパラメータとして、資産評価における保守主義要因と会計利益の認識ラグ要因の2つを推計し、それらと、財務面における企業特性、ステーク・ホルダー間のコンフリクトおよび企業のガバナンスとの関係を分析している。
 分析の結果、財務面の企業特性との関係では、収益の成長性の高い企業は、資産評価における保守主義要因より会計利益の認識ラグ要因のほうが会計の保守性に与える影響が大きいとの結果が得られた。ステーク・ホルダー間のコンフリクトとの関係では、株主と債権者の利益分配に関するコンフリクトが大きい企業ほど、保守的な会計を選択する傾向にあることが示された。また、企業のガバナンスとの関係では、経営者は純資産を過小には評価せず、会計利益を過小に評価する傾向にあることや、株主構成が会計利益の認識ラグの重要な決定要因となっていることが示された。
 これらの点は、会計数値が過去の事実を記述するだけでなく、保守的な会計測定を通じて、経営者と株主の利害調整に重要な役割を果たしていることを示唆している。

キーワード:保守性、会計測定、簿価・時価比率


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