金融研究 第22巻別冊第1号 (2003年6月発行)

わが国株式投資信託の需要構造について
─動学的資産選択に基づく設定 ・解約行動分析─

田中寛厚、馬場直彦

 本稿では、わが国株式投資信託に関する投資家の設定・解約行動について理論・実証両面から分析を試みた。理論モデルとしては、取引コスト存在下での投資家の異時点間を通じた動学的意思決定モデルを採用した。これにより、投信売買時に発生する設定・解約コストや収益率に関する不確実性が、各期ごとの独立した意思決定を前提とした通常のCAPMでは想定されない「投資決定を先送りするオプション」価値を変動させることを通じ、投資行動に影響を与えることが明らかになる。比較静学によれば、不確実性の増大は、設定率のみならず解約率をも引き下げる方向に作用し、数%の販売手数料や信託財産留保金は、投資家の最適な投信保有量を数~10%のオーダーで変化させ得る。
 さらに、個別株式投信の日次の設定・解約額についてのパネル・データ分析を通じ、わが国株式投信の需要行動に上述した動学的最適化の特徴が確認できるか実証的に検討した。その結果、サンプル期間中(2000年8月~2001年7月)は、概ねモデルが想定する合理的な投資行動が実践されている可能性を確認した。この結果によれば、近年の株式投信の低迷は、収益率の悪化、不確実性の増大、手数料の高止まりといった環境下で、投資家が設定を合理的に先送りしていることにより生じていると解釈することが可能である。

キーワード:株式投資信託、動学的資産選択、リバランス、手数料、不確実性、パネル・データ分析


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2003 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム