金融研究 第22巻第4号 (2003年12月発行)

名目賃金の下方硬直性が失業率に与える影響
─マクロ・モデルのシミュレーションによる検証─

黒田 祥子、山本 勲

 低インフレないしデフレのもとで、名目賃金の下方硬直性は失業率をどの程度押し上げるだろうか。こうした問題意識に基づき、本稿では、Akerlof, Dickens and Perry[1996]の一般均衡モデルに、黒田・山本[2003b]で計測したわが国フルタイム男性雇用者の名目賃金の下方硬直性を組み込み、男性失業率に与える影響をシミュレートした。さらに、本稿では、名目賃金の下方硬直性だけではなく、それ以外の「労働市場の歪み」によっても失業率が押し上げられることを示し、両者の影響を明示的に識別することによって、インフレ率の低下に伴う失業率の上昇のうち、名目賃金の下方硬直性によるものがどの程度であるかを検討した。
 シミュレーションの結果、以下の点が明らかになった。まず、黒田・山本[2003b]で1993~98年のマイクロ・データを用いて計測した名目賃金の下方硬直性は、下方硬直性の度合いが完全であるケースと比べると、失業率に対してかなり小さな影響しか与えない。ただし、その影響は無視しうる程度のものではなく、本稿で想定した標準的なパラメータのもとでは、失業率を最大で1.8%程度押し上げる。次に、インフレ率との関係でみると、名目賃金に下方硬直性が存在しても、名目賃金の下方硬直性に起因する失業はインフレ率が2.4%程度以上であれば発生しないが、インフレ率が2.4%程度以下になると徐々に増加する傾向にある。ただし、わが国では賞与の調整や大幅な賃下げによって名目賃金の下方硬直性の度合いが緩和されるため、1%程度以下の低インフレないしデフレのもとでは、名目賃金の下方硬直性による失業の増加は概ね抑制され、むしろ「労働市場の歪み」による失業の追加的な発生が問題になる。

キーワード:名目賃金の下方硬直性、失業率、インフレ率、金融政策、シミュレーション


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