金融研究 第22巻第3号 (2003年9月発行)

為替レートのパス・スルー低下:
わが国輸入物価による検証

大谷聡、白塚重典、代田豊一郎

 本稿は、1980年代から2001年までのわが国の輸入物価を使って、為替レートのパス・スルーがどのように変化したかを実証的に分析している。本稿の分析により、わが国の輸入物価に対する為替レートのパス・スルーは1990年代に低下し、そうした低下は、特に1980年代後半から1990年代央にかけて生じたことが明らかにされる。加えて、為替レートのパス・スルーの低下は、パス・スルー水準の高い原材料からパス・スルー水準の低い工業製品へ輸入シェアがシフトしたためではなく、各品目のパス・スルーが全般的に低下したためであることが示される。さらに、パス・スルー低下の時期は、円の急激な増価やそれに伴う経済や国際貿易構造の変化の時期と軌を一にしている。わが国企業の国際的な事業展開の進展は、為替レートのパス・スルーを低下させる可能性が高いが、こうした為替レートのパス・スルーの低下自体は、マクロ経済変動との関連で、為替レート変動が必ずしも重要ではなくなったことを意味するわけではない点には留意を要する。

キーワード:為替レートのパス・スルー、PTM(pricing-to-market)、輸入構造、支出切替え効果、企業の生産・部品調達体制


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2003 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム