金融研究 第22巻第3号 (2003年9月発行)

ミクロ・データによる家計行動分析:
将来不安と予備的貯蓄

村田啓子

 本稿では、日本の30歳代を中心とした家計のミクロ・データを用いて、予備的貯蓄の実証分析を行う。不確実性の指標として、主観的な指標(subjective measures)を用いることにより、景気見通しや公的年金制度に関して家計の抱く不安が貯蓄行動に及ぼす効果を検証する。
 主な結果として、第1に、親と同居していない家計や親から経済的援助を受けていない世帯を対象とした場合、 年金不安のある家計は、不安のない家計に比べ金融資産をより多く保有していることがわかった。これは、対象世帯の中心が30歳代であることを考慮すると、かなり長期的な将来の不安が現在の資産蓄積行動に影響を及ぼしていることを意味する。第2に、世代間のリスク・シェアリングが年金不安による予備的貯蓄を軽減している可能性がある。第3に、年金不安による予備的貯蓄は、相対的にリスクの低い預貯金や個人年金・保険に表れており、有価証券保有額には影響を及ぼしていない。第4に、景気見通しと貯蓄には明確な関係は得られなかった。

キーワード:予備的貯蓄、不確実性、公的年金不安、ミクロ・データ、パネル・データ


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