会計情報の提供プロセスのあり方に関しては、学界・実務界では、経営者の裁量をどこまで認めるべきかという点が従来から1つの論点となっているほか、近年の会計基準を巡る国際的な議論でも、経営者の裁量のあり方に関する意見の対立がさまざまな局面でみられている。そこで、本稿では、会計情報の提供プロセスにおける経営者の裁量の意義と問題点について、会計情報の質的要件および関連する実証研究の成果から検討を行った。
経営者の裁量のうち、会計処理選択における経営者の裁量については、経営者の利益調整を回避する観点からこれを排除するという方向での議論が行き過ぎることは望ましくなく、むしろ、こうした経営者の裁量を認めつつ、非会計情報の活用や監査の機能向上などにより利益調整問題に対応していくという方向性が望ましいと考えられる。他方、会計数値の見積り計算に介在する経営者の裁量については、会計情報の信頼性が損なわれない範囲で会計情報に取り込んでいくべきであると考えられる。公正価値情報や無形資産に関する情報等、現行の枠組みでは十分に提供しきれないような情報については、非会計情報の提供により対応していくことが望ましい。非会計情報の会計情報化によって会計情報の信頼性が損なわれることを避け、会計情報と非会計情報の補完関係を重視していくことが重要ではないかと考えられる。
キーワード:会計情報、経営者の裁量、会計処理選択、見積り計算、会計情報の質的要件、経営者の意図、国際会計基準
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