金融研究 第21巻別冊第2号 (2002年10月発行)

わが国男性高齢者の労働供給行動メカニズム
─年金・賃金制度の効果分析と高齢者就業の将来像─

樋口美雄、山本勲

 本稿では、わが国男性高齢者の就業状況や労働供給行動メカニズムを明らかにし、高齢者就業の将来像を展望する。
 分析には『高年齢者就業実態調査(個人調査)』の個票データを利用し、55~69歳の男性高齢者が就業形態(フルタイム雇用・パートタイム雇用・就業希望<広義失業>・非就業)を選択する構造形の労働供給関数を推計することによって、賃金や年金、職種等の要因が高齢者の就業行動にどのような影響を与えているかを定量的に検証した。そのうえで、年金制度が変更された場合や年功的な賃金システムが改められた場合等のさまざまなケースにおいて、高齢者就業がどのように変化するかをシミュレートした。
 これらの分析によって得られた主な結果としては、(1)1994年度の厚生年金制度の改正には、60~64歳層の労働供給を3%程度引き上げる効果が確認できるが、改正後の制度においても高齢者の就業意欲を抑制する効果は依然大きいこと、(2)厚生年金の支給開始年齢を65歳に引き上げた場合には、60~64歳層のフルタイム雇用が14%程度増加すること、(3)年功賃金の度合いを緩め、55歳以降の賃金カーブをフラット化した場合には、50歳代後半のフルタイムの雇用確率が減少する一方で60歳代前半の雇用確率が上昇すること等が挙げられる。

キーワード:高齢者雇用、労働供給関数、在職老齢年金、早期退職、多項ロジット、ネスティド・ロジット


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2002 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム