本稿では、わが国の高齢者雇用の現状を明らかにし、今後の高齢者雇用に関する政策運営についての知見を述べる。
分析には『高年齢者就業実態調査(事業所調査)』の個票データを利用して、年齢別のハザード・レート関数を推計した。推計結果から確認されたことは、(1)賃金カーブが急な事業所ほど高齢者が多く外部へ出されていること、(2)賃金・退職金規定の改正、短時間勤務体制などの雇用環境の整備、教育訓練の実施といった雇用管理策をとっている事業所で、より多くの高齢者が活用されていること、(3)政府の雇用助成金政策が60~64歳層の雇用にプラスの効果を持っていること等である。
こうした結果を踏まえて、定年制や年齢差別禁止法、賃金と生産性のギャップ、ワーク・シェアリングに関して考察したところ、(1)定年制には定年年齢に到達するまで雇用を保障する機能がみられるため、当面は定年制を維持し、勤務延長・再雇用制度を活用して高齢者の雇用を促進することが望ましいこと、(2)高齢者の雇用確保には、賃金制度を改定して年功的な要素を減らすことや、高齢者の能力を活かすことのできる環境を整備することなど、高齢期の賃金・生産性ギャップを縮めていくことが重要であること、(3)1人当たりの労働時間を短くして雇用者数を増やす、いわゆる高齢者版ワーク・シェアリングは、雇用確保策、あるいは長期的な労働供給制約を回避する手段として有用であると考えられること等の政策含意を得ることができた。
キーワード:高齢者雇用、雇用管理、定年制、勤務延長・再雇用制度、年齢差別禁止法、ワーク・シェアリング
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