金融研究 第21巻第4号 (2002年12月発行)

第10回国際コンファランス
─「21世紀の国際通貨制度」─議事要旨

 金融研究所は、2002年7月1、2日の両日にわたり、「21世紀の国際通貨制度」というテーマで第10回国際コンファランスを開催した。
 2002年にユーロ紙幣の流通が開始され、米州でドル化の動きが広がるなど、国際通貨制度に大きな変化が生じている。さらに、1990年代後半以降、新興市場諸国で通貨危機が頻発し、その予防策、国際機関の関与のあり方についても、中央銀行、国際機関、学界等でさまざまな議論が行われている。今回のコンファランスでは、こうした国際通貨制度の変化やそれを踏まえて進展した議論を意識しつつ、国際通貨制度の将来像や、中央銀行の役割について議論がなされた。具体的には、米州・欧州・東アジアの3地域に焦点を当て、(1)各地域での短期的・中長期的にみた地域通貨圏発展の可能性、(2)ドル・ユーロ・円の3大通貨の間で為替の安定と物価の安定を両立させるシステム、(3)中央銀行の果たす役割等について議論が行われた。
 こうした問題意識に基づき、コンファランスでは、速水総裁の開会挨拶、海外顧問の基調講演、導入報告の後、4テーマに分けて報告を行ったうえで、最後に物価の安定と為替の安定に関するパネル・ディスカッションを実施した。
 第1セッション「21世紀の国際通貨制度:展望」では、為替相場制度の定義と潮流を概観し、1990年代後半に有力となった「バイポーラー・ビュー」の妥当性を米州・欧州、東アジアについて検討し、各地域での地域通貨圏成立の見通しについて考察した。
 第2セッション「米州の為替相場制度:ドル化は解決策か?」では、米州諸国の為替相場制度選択の現状とその理論的背景が説明された後、当面ドル化によるメリットが大きい諸国、変動相場制を維持する見通しの諸国についての事例が挙げられ、最後に米州通貨圏の将来が展望された。
 第3セッション「欧州通貨統合における金融財政政策」では、欧州通貨統合発足以後の金融・財政政策が検討され、金融政策の運営については、現在までのところ順調であるものの、マーストリヒト条約・安定成長協定による財政政策への規律付けには改善の余地があるとの主張がなされた。
 第4セッション「東アジアの為替相場制度:通貨危機からの教訓」では、東アジアのエマージング諸国にとっては、円/ドル・レートの変動が激しいこと、貿易や直接投資の相手国が多様であることを勘案すると、円・ドル・ユーロの3通貨に同程度のウエイトをおいた通貨バスケットに対して自国通貨を安定させることが有益との主張がなされた。また、域内為替レートの安定化のためには、通貨バスケット制を域内で協調して行うことが望ましく、そうした取り組みが域内におけるサーベイランス・資金融通体制の整備によって補完されるべき、との主張がなされた。
 第5セッション「独立通貨圏と経済成長・インフレーション」では、1970年から1998年までのデータを用いて、複数の国が共通通貨を発行し、先進国通貨にペッグする独立通貨圏諸国と、自国通貨を流通させている諸国のマクロ経済パフォーマンスを実証的に比較することで、共通通貨導入の経済効果が検討された。
 最後に、議長を含む中央銀行関係者4名および当研究所海外顧問2名からなるパネル・ディスカッションでは、物価の安定と為替の安定に関する理論上、実践上の課題について議論が行われ、議長の総括コメントを経て閉会した。


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