金融研究 第21巻第1号  (2002年3月発行)

退職給付、ストック・オプションの社会会計
―所得の発生と価値の変化をどのように考えるか

宇都宮浄人、萩野覚、長野哲平

 社会会計の体系では、雇用者報酬等の所得には、株式のキャピタル・ゲインなど時価の変動が含まれないが、実際にはこの区分が明確ではない場合も多い。退職給付債務やストック・オプションのような「労働債務」はその好例であり、企業会計では、「労働債務」の残高の変化を雇用者報酬と考える方向にある。
 本稿では、これらの社会会計における記録方法として、「労働債務」の変動分を雇用者報酬とみなす考え方と、これを時価の変動とみなし、調整勘定に記録する考え方の2つのアプローチを具体的に提示する。社会会計の体系全体の平仄からみると後者が望ましいが、このアプローチでは企業会計との間で雇用者報酬の概念が異なることになる。
 このように企業会計と社会会計の考え方が大きく異なってしまう背景には、経済実態として所得の発生と価値の変化の区分があいまいになってきているという事実がある。実際、どこまでを所得とみなすべきかは、多分に利用者に依存する。社会会計は、全体の整合性を維持しつつも、複数のアプローチがある場合には、詳細データを開示し、利用者が組替え可能な形にすることが必要である。

キーワード:社会会計、企業会計、退職給付、ストック・オプション、労働債務、雇用者報酬、調整勘定


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