金融研究 第21巻第1号  (2002年3月発行)

物価と景気変動に関する歴史的考察

北村行伸

 本稿では、世界的にみて物価と景気はどのような関係にあり、それが歴史的にどのように変化してきたか、そして、その変化の背後にどのようなメカニズムが働いたのかを検証してみた。その結果、いくつかの事実が明らかになった。第1に、1945年以前には物価下落という意味でのデフレは日常的に起こっていた。すなわち、賃金・物価の下方硬直性は20世紀以前にはあまりみられなかった。第2に、戦間期(1918~40年)はすべての国にとって、異常な時代であった。第1次世界大戦中に発生した非戦場国(南北アメリカ、日本、オセアニア)でのバブル経済、ドイツの戦後賠償金問題とその帰結としてのハイパー・インフレ、金本位制への復帰とそれへの固執がもたらした政策判断の決定的な誤りなどが複合して起こった大恐慌等の現実に対して具体的な処方箋を提示したのがケインズであった。1918~45年はケインズの経済学の対象となった時代である。第3に、インフレが恒常化したのは第2次大戦後のことである。ブレトンウッズ固定相場体制のもとで、アメリカが基軸通貨国として寛容な政策を行った結果、各国は比較的安定した経済成長を享受したと同時に、賃金・物価の下方硬直性が制度化された。

キーワード:物価、インフレ、景気変動、大恐慌、金本位制


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