金融研究 第20巻第4号 (2001年12月発行)

リスク管理に関する経済学的考察
―理論的・実証的サーベイ―

馬場直彦

 近年、リスク管理手段の発展が目覚しい。しかし、企業が(期待)収益最大化規準に基づいて生産・販売活動を行っている場合には、価格変動リスクをヘッジするインセンティブは生まれない。また、企業金融の基本理論によれば、投資家が自ら分散投資を行うことによってリスクを管理することができる場合には、企業経営者サイドで投資家のためにリスク管理を行う意義はない。本稿はこうした現実と理論との間のギャップを埋めることを企図している。具体的には、モジリアーニ=ミラー命題の成立を保証するような市場の完全性の仮定を緩め、累進的な法人税や倒産費用、外部資金調達にかかるプレミアム、あるいは株主・債権者間のエージェンシー問題等を考慮した場合には、企業経営者はリスクを管理することにより株主利益に貢献(企業価値を増加)することができる。近年の実証分析例をみると、これらの仮説は概ね支持されている。しかし、企業経営者に拡張嗜好があるときには、株主利益を毀損してしまう可能性があることも指摘されている。このほか、リスク管理を巡る実務的な問題点としては、リスク・エクスポージャーの概念選択の問題や、モデル・エラー、リスク理解の欠如等がある。

キーワード:リスク管理、リスク・エクスポージャー、企業価値、モジリアーニ=ミラー(MM)命題、エージェンシー問題、市場の完全性


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