金融研究 第20巻第3号 (2001年9月発行)

財政規律と中央銀行のバランスシート
─金本位制~国債の日銀引受実施へ・中央銀行の対政府信用に関する歴史的考察─

鎮目雅人

 本稿では、中央銀行のバランスシートの健全性の意味を考える際の1つの視点を提供するために、歴史的観点から、日本銀行の対政府信用について、金融市場における政府の資金調達と中央銀行の役割に即して考察する。はじめに、日本において財政に対する市場の規律がどのように作用していたのかという点を軸に、インフレ、金融市場全体の資金の流れ、ならびに政府の資金調達と中央銀行の対政府信用の関係について、歴史的事実の整理を行う。続いて、中央銀行の対政府信用に関する最近の研究を踏まえ、上記の歴史的事実に即して中央銀行の対政府信用と財政規律との関係について、整理を試みる。
 金輸出が停止されていた第1次大戦後の時期を含めて、わが国が金本位制を採用していた時期には、内外金融市場の連動性が保たれており、これが財政規律の確保につながっていた。1920年代には、第1次大戦を契機とする経済・社会構造の変化を受けて財政の構造的赤字が増大し、金本位制を維持するための緊縮的な財政運営が困難化していたが、政府は金本位制維持に対するコミットメントを継続しており、長期的に均衡財政への復元を図る意思はあったので、財政規律が完全に失われていたとはいえない。その後、高橋財政期には、金本位制からの離脱、国債の日銀引受をはじめとする政策運営スキームの根本的な変更が実施されたが、金本位制に代わる財政規律メカニズムは存在せず、中央銀行は財政支出のファイナンスを念頭に置きながら政策を運営せざるを得なかったという意味において、金融政策の財政政策化が進展し、財政規律の喪失につながったことが示唆される。

キーワード:財政規律、中央銀行の対政府信用、金本位制、国債、インフレ


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