金融研究 第2巻第3号 (1983年11月発行)

銀行行動諸規制検討のための一考察
−銀行経営の健全性維持の観点から−

遠山 浩

 今日数多くの規制が銀行行動に対して課せられているが、本稿ではそのうち銀行1)のバランスシートおよび業務分野に関する諸規制に限定し、とくに銀行経営の健全性維持の観点からみたそれらの有効性について理論的な検討を試みたものである。本来こうした規制の評価を行うためには、銀行に対して規制を課す必要がそもそもあるのか否かの検討を加える必要があると考えられるが、本稿では国民経済的な観点から信用秩序が維持されるということに公共財的な意義を認め、そうした状況を実現するためには、やはり健全経営を銀行に促しうるような公的当局の規制ないし指導は最小限必要との立場に立っている。したがって、そうした内容の規制を有効に実施するうえで、どのようなタイプの規制が好ましいかを検討するものである。
 銀行行動諸規制の評価を巡る従来の議論では、こうした規制の有効性(とくに今後予想される金融環境の下での有効性)や銀行の金融仲介機能との関連が十分統一的に把握されていなかったように思われるが、それはとりもなおさず銀行経営の健全性を問題にしながら、その維持にあたって、「solvency」とともに重要な意味を持つ「流動性」という概念を必ずしも客観的に捉えていなかったことによるものと考えられる。したがって、本稿ではまず第1に、J.Tobin,B.J.Mooreの見解に従って「流動性」を1.「流動化時間(狭義流動性)」と2.「元本確実性」とに分解する。このように分解した流動性概念に基づいて銀行の流動性維持を目的とした諸規制をいくつかの類型に分類し、これらを統一的に把握しうるフレームワークを作成する。第2に、このようなフレームワークの中に分類整理された規制のいずれが銀行経営の健全性維持を達成するうえでより有効であるかについて、簡単なポートフォリオ・セレクションの理論を用いて分析評価を試みる。
 この分析から得られる結論は、銀行行動がリスク回避的であるとの前提に立つ限り、長短金融分離の原則、証券業務兼営の禁止といったいわゆる業務分野規制というタイプの規制は必ずしも銀行経営の健全性を高める方向には働かず、かえってそれを脅かす可能性すらあること、したがって銀行経営の健全性維持の観点からは銀行に対してこうした業務を選択しうる余地を残しておいた方が好ましいと考えられることである。ただ本稿は、あくまでも銀行経営の健全性維持の観点に絞って各種規制の有効性を評価したものである。銀行行動に対する規制や金融システムのあり方を評価し、制度改革の方向を具体的に考える際には、本稿で着目した健全性のみならず効率性や公正等の基準にも照らして総合的な判断を下す必要があることはいうまでもない。


1)本稿における「銀行」とは、わが国の場合、銀行法上の銀行(外国為替専門銀行を除く都市銀行と地方銀行)を念頭に置いている。


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