日本銀行金融研究所では、1980年代後半の資産価格バブルを巡る分析的な総括を試みる研究プロジェクトを立ち上げ、行内・行外の執筆者によって、当時の政策運営を検証した論文2本をまとめた(翁邦雄・白川方明・白塚重典「資産価格バブルと金融政策:1980年代後半の日本の経験とその教訓」および香西泰・伊藤修・有岡律子「バブル期の金融政策とその反省」、いずれも本号所収)。
この研究プロジェクトは、バブル崩壊からすでに10年近くが経過しており、日本銀行としてバブル期の政策運営に関する何らかの「分析的総括」が求められている、との問題意識から開始された。すなわち、1990年代の日本経済は、大きな苦境に陥ったが、その1つの大きな要因として、バブルの発生と崩壊があったことは否定し難い。こうした観点から、日本銀行が低インフレ下の金融政策運営の経験について語る時、バブルの問題を避けてとおることはできない、と考えられる。
しかしながら、バブルの発生メカニズム、金融政策の果たした役割や果たすべき役割について、中央銀行、学界の間でも共通の理解が現在なお存在していない。その一方で、バブル崩壊後の調整がまだ終わっていない現段階では、どのような内容の分析を公表しても、日本銀行の「自己弁護」と受け取られるおそれが高いほか、それを避けようとすると、今度は過度の「反省」になり、バブルを正しく理解したことにならないおそれが生じる、との懸念も存在した。
こうした観点から、日本銀行スタッフ自らが分析的な総括を試みると同時に、高い見識を有する日本銀行外のエコノミストに論文作成を委託し、総合的に日本銀行の政策を検証することとした。
これら2つの論文が完成し、プロジェクトを終了するに当たって、その研究成果を今後の政策運営につなげるとの観点から、論文執筆の中で意識した論点を振り返りつつ、2つの論文の分析結果、政策含意の共通点・相違点、あるいは論文中で十分に書き尽くすことができなかった点、等について、執筆者が一堂に会して議論するために、座談会を開催することとした。
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。