金融研究 第19巻第2号 (2000年6月発行)

わが国銀行業の将来像
─ 預金通貨需要からのアプローチによるマクロ的サイズの検討 ─

石田 和彦、三尾 仁志

 わが国の銀行業については、しばしば、個々の銀行の資産圧縮やリストラ、マクロ的にみれば「オーバーバンキング」状態の解消の必要性が主張される一方で、最近の経済動向との関連でみると、銀行の「貸し渋り」がマネーサプライの伸びや企業の設備投資を抑制し、景気回復の障害となっているとの議論もなされている。本稿は、こうした一見矛盾した議論に対する考察を行ったものである。その際、銀行業の最適なマクロ的サイズを決定するのは、「金融仲介」に対する需要ではなく、決済手段としての「預金通貨」に対する需要であるという立場からのアプローチを試みた。
 こうした立場から、①決済手段としてのM1残高のGDPに対する比率、および、②銀行業全体のサイズを代表する指標としてのM2残高のM1残高に対する比率の2つの時系列データを中心に、簡単な国際比較を行ったところ、i)M1のGDPに対する比率は、各国の決済構造に依存して決まっていると思われること、ii)M2/M1の比率は、資本市場の発達度合いに依存せず、各国間の格差が少ないこと、iii)これらの比率は、循環的要因を取り除くと比較的安定していることがわかった。
 本稿の分析自体は極めて簡便なものであるため、その結論は幅を持ってみる必要があろうが、これらの分析結果は、企業金融構造やその背後にある金融仲介市場の構造(資本市場の発達度合い等)ではなく、決済手段としての預金通貨に対する需要が銀行業のマクロ的サイズを規定していることを示唆している。したがって、「日本の企業金融構造が米国に近づく結果、銀行業のマクロ的サイズも縮小する」といった主張や、それにもとづいて最近の銀行貸出やマネーサプライの伸びを評価するような見方の妥当性については、より慎重な検討が必要であろうと考えられる。

キーワード:銀行業のマクロ的サイズ、預金通貨、決済手段


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