金融研究 第18巻第5号  (1999年12月発行)

会計基準設定プロセスの国際的調和化に向けたドイツの対応
— プライベート・セクターによる会計基準設定と立法・行政権との関係を中心に —

古市 峰子

 各国における会計基準設定主体のあり方を見ると、米国や英国では、従来から、専門家によって構成された常設・独立の会計基準設定機関が存在し、それが透明性の高いプロセスに基づいて会計基準を設定している。一方、近年における会計基準の国際的調和化や国際会計基準委員会(IASC)の組織改編の動きは、各国の会計基準設定プロセスを巡る制度改革を促す契機となっており、例えばドイツでは、1998年、米国の財務会計基準審議会(FASB)に倣うかたちで、民法上の社団法人による会計基準委員会が設立された。
 ドイツでは、会計基準は本来法令のかたちで国家が定めるべきとの考えが強く、しかも、こうした国家権力の私人への委譲が基本法(憲法)上、明確に制限されている。このため、会計基準の設定をプライベート・セクターに委ねることが、例えば立法権や行政権との関係で法制上可能かなどが問題とされた。その結果、同国では、①会計基準委員会の作成する基準には直接の法的拘束力は付与しない(「正規の簿記の原則」に係る推定的効力を付与するにとどめる)とするものの、②その基準策定プロセスの透明性、公開性を強化することにより民主的コントロールを確保すること等によって、会計基準の設定をプライベート・セクターに委ねることの法的正当性を担保している。
 これまでの国際的な会計基準の設定を巡る状況を見ると、事実上、アングロサクソン諸国である米国、英国、カナダ、オーストラリア(G4)等がリードしてきている。そうした中で、ドイツの今回の対応は、今後の国際的な会計基準の作成において発言権を確保していくための対応といえよう。会計制度は、各国固有の法制度や慣行等の影響を受けざるを得ないが、一方、グローバルなマーケットが現実となってきているもとで、国際的調和化が求められていることも事実であろう。今回のドイツの対応は、従来の法体系の大枠を崩さないような工夫を施しつつ、プライベート・セクターにより、常設・独立の基準設定機関を設置する動きとして評価できよう。
 わが国における会計基準設定主体のあり方を論じる際も、今後、米国や英国のほか、ドイツ等の新たな動きを含め、諸外国の例も参考にしながら、幅広い観点からの議論が望まれる。

キーワード:会計基準設定主体、会計基準の国際的調和化、IASC、FASB、ASB、DRSC


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