金融研究 第18巻第2号 (1999年4月発行)

公開鍵暗号の理論研究における最近の動向

宇根正志、岡本龍明

 公開鍵暗号は、暗号化と復号に異なる鍵を用いる暗号であり、復号に用いる鍵を秘密にする一方、暗号化に用いる鍵を公開する。公開鍵暗号は、公開する鍵の真正性を確保する仕組みが必要となるものの、①事前に通信相手に鍵を配送する必要がない、②通信相手確認や受信データの真正性確認等を可能にするディジタル署名を実現できるなどの利点を有することから、インターネット等オープンなネットワークにおける情報セキュリティ技術として幅広く利用されている。
 公開鍵暗号の理論研究は、1976年にDiffieとHellmanによって公開鍵暗号のアイデアが提案されて以来、多くの暗号学者によって進められてきた。これまでにRSA暗号やElGamal暗号をはじめとする様々な暗号方式が提案されている。
 最近の公開鍵暗号の理論研究において特に注目されているのは、証明可能な安全性と実用性を兼ね備えた暗号方式に関する研究である。現在実用化されている暗号方式の中には、これまでに効率的な解読法が見つかっていないものの、安全性が証明されていないものが多い。したがって、それらの暗号方式について、効率的な解読法が存在する可能性を否定することはできない。これに対し、最近では、OAEPやEPOC等、既存の方式に改良を加えることによって証明可能な安全性と実用性を両立させる暗号方式が提案されている。OAEP等これらの方式の一部は、既に実用化されている暗号プロトコルの安全性を高める目的から、PKCS#1等いくつかの業界標準で採用されている。
 公開鍵暗号の安全性証明に関する研究は、公開鍵暗号を利用した様々なシステムにおける信頼性を高める上で、今後一層重要になると考えられる。本稿では、こうした最近の安全性証明に関する研究の動向を中心に、これまでの主要な公開鍵暗号に関する研究成果について説明する。

キーワード:安全性証明、 公開鍵暗号、ディジタル署名


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