本稿は、民事訴訟法における文書提出命令について、その概要を紹介するとともに、類似の制度との比較等を通じ、これに関する議論の整理を行う。
平成8年の民訴法全面改正により、旧法では限定的に課されていた文書提出義務が、一定の例外を除き、すべての非公務文書に課されることとなった。旧法でも、文書提出義務の範囲は拡張的に判断されていたため、改正後の提出義務の範囲がどう変化するかについては、判例や実務の確立を待つ他ないが、新法下での義務の範囲は広くなるとの見解が多く、実際にそのような考え方に立つ判例も現れはじめている。また、民事訴訟のために文書提出を求められる可能性も、改正前より高くなることには注意が必要である。
非公務文書の提出の要否を判断する際に特に問題となるのは、「技術・職業上の秘密」および「自己使用文書」という概念で、通説・判例は、いずれも個別具体的な利益衡量により判断するとしている。ただ、その具体的判断基準についての検討は不十分と思われる。実定法上の「秘密」概念や利益状況の場合分けに基づき、より具体的な基準を検討することが課題となろう。
公務文書の提出命令については、現在、改正法案が国会に提出されている。同法案の内容としては、提出義務が非公務文書同様一般化されたこと、義務の存否の最終判断権者を裁判所としたこと、「公務員が組織的に用いる」文書が自己使用文書から除外されたこと等が注目に値する。
文書提出命令を証言・文書提出等についての他の制度と比較する際、情報公開法や民訴法の文書提出命令制度は、最近創設・改正されているという点で、いわば進んだ制度であるという見方をすると、立法論として、個人・法人に関する情報の保護や、「職務上の秘密」の扱いにおいて、取り入れるべき点があり得るだろう。
キーワード:文書提出命令、証言拒絶権、技術・職業上の秘密、自己使用文書、情報公開法
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