本稿は、近年、米国や英国、国際会計基準委員会における金融商品の時価評価についての議論において注目されている「包括利益(comprehensive income)」について解説を加えたものである。
「包括利益」とは、米国の標準的な定義によれば「出資者による投資および出資者への分配から生じる持分(純資産)の変動を除いた、取引その他の事象および環境要因からもたらされる1会計期間の企業の持分について認識されるすべての変動」(SFAC第5号par.39)とされている。
もともと「包括利益」は、1960年代以降、利益報告方法が変遷する中で生まれてきた概念である。米国を例にとると、利益報告方法は、1966年に従来の当期業績主義から、非経常的損益項目も含めたすべての収益・費用項目を報告すべきとする包括主義に転換したが、その一方で収益認識基準としては引き続き実現主義がとられていたため、資産・負債の未実現評価損益は損益計算書には報告されずに、貸借対照表上の資本の部に直接計上されていた。「その他の包括利益」とはこうした純利益として認識できない評価損益の受け皿として包括利益を形成するために導入された概念である。
包括利益の導入は金融商品の時価評価と合わせて財務諸表の情報提供能力を高めよう。しかしながら、純利益と「その他の包括利益」との間の線引きをどうするか、あるいは包括利益を業績指標とすべきかといった問題については、なお今後の検討に委ねられている。
キーワード:包括利益、その他の包括利益、稼得利益、当期業績主義、包括主義、再分類調整
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