金融研究 第17巻第5号 (1998年11月発行)

債券格付けと理論上の信用リスク・プレミアムに関する研究

三好眞

 本研究の目的は、上場法人の企業債務について、信用リスク・プレミアムを計測するプラクティカルな手法の研究開発及び実証分析を行うことである。
 基本的な評価手法はMerton[1974]が企業の債務を企業価値の上に書かれた条件付請求権として適用したモデルを使用するが、当モデルを現実社会に当てはめた場合、負債の市場価値及び資産成長率ボラティリティが既知でないという問題点がある。そこで、本論文では、MM命題の下で負債及び資本の価格式によるイテレーション法を用い負債の現在価値を得る。また、EGARCHモデル 及びQuasi-CEV(従来のConstant ElasticityVolatilityモデルを本研究において、実用面で改良したモデル)により2種類の株式投資収益率ボラティリティを推定し、資産成長率ボラティリティを得る。
 実証分析により、株式市場からの情報が信用度の悪化をモニタリングする上で有用であることが実証できた。1995年以降にデフォルトした15法人のプレミアムは東京証券取引所1部上場銘柄の中で信用度が悪化した方向から5%以内に継続して入っていた。また、期間1年のデフォルト率推定値を格付けに換算して米系格付機関の格付け結果と比較すると、70%から80%の法人の評価結果が1レベル以内の格差に収まった。
 さらに、市場全体の信用リスク・プレミアムの水準は、1997年4月には既に過去のピークに達しており、昨今の株式市場が発する信用リスクのシグナルの大きさが窺われる。

キーワード:Mertonモデル、信用リスク・プレミアム、負債の市場価値、資産成長率ボラティリティ、EGARCHモデル、Constant Elasticity Volatilityモデル


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