金融研究 第17巻第5号 (1998年11月発行)

オプション価格理論に基く適正預金保険料率の推定

小田信之

 本論文では、個々の銀行のデフォルト・リスクに見合った適正な可変預金保険料率を算定する方法の一つとして、銀行の株価情報に基きオプション価格理論を利用して料率を推定する方法を取り上げ、わが国のデータにより実証分析を行う。
 本論文の問題意識は、預金保険制度の機能の一つが公的機関による銀行経営の代理モニタリングであると考えた場合に、どのような枠組みでモニタリングを行うべきかという点にある。米国における現行制度のように、公的機関による主観的な判定に加えて何らかの客観的な判定も料率設定基準に組み入れることを展望すると、わが国でどのような方法が候補となり得るのか分析する必要がある。
 本論文では、株価情報に基く料率設定方法が有効かつ安定的に機能し得るかについて考察するために、同方法による試算結果と他の銀行経営指標(格付け等)との比較分析や、経営破綻銀行の事例分析などを行う。その結果、同方法は、一定の評価誤差を伴うものの、経営悪化先を判別する上で効果的であるとの結論を得る。特に、最近1年強の間については、監督当局のフォベアランスに対する市場期待の変化を調整することにより、推定の正確性を改善可能であることを確認する。また、本手法を実際に運用すると想定した場合に、銀行経営にどのようなインパクトが及ぶかについても、若干の考察を加える。

キーワード:預金保険、可変預金保険料、オプション価格理論、株価情報、信用リスク、倒産予測、フォアベランス


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